月刊グラン3月号のご紹介[米本拓司選手インタビュー]
ファミリーの前でプレーするのは本当に幸せ
けがをしても「復帰したい」と思わせてくれるサポーターがたくさんいたから今の自分がある
昨季の最終戦でJ1通算350試合出場を達成した米本拓司。選手生命さえ危ぶまれるけがから何度も立ち上がり、不死鳥のようによみがえってきた。大幅な選手の入れ替えで変化が起こるだろう今季のグランパス。プロ16年目のベテランは、どんな思いを抱いて開幕に臨むのだろうか。
豊富な運動量、読みの鋭いボール奪取、チャンスにつなげるキーパスなど、ボランチとしての資質を全て持ち合わせる米本が16年目のシーズンを迎えた。決して強豪校とは言えない地元の公立高校からプロ入りしたのが2009年。ベテランと呼ばれる年齢になっても、チームだけではなくリーグの中でも大きな存在だ。
―プロ16年目のシーズンが始まりました。今の心境は。
プロに入った時に、ざっくりとした目標でしたけど『35歳までプレーしたい』と言っていて、それに近づいてきたな、という感じもありますし、『引退』という文字も見えてきているので、それまでにやっぱりリーグタイトルは獲りたいなと思っています。
―まだまだプレーできると思いますが、もしやれるのなら三浦知良選手(ポルトガル・UDオリヴェイレンセ)みたいに50歳を過ぎてもプレーしたいですか。
あそこまでできればすごく幸せなことですけど、チームの状況だったり僕の足だったり、いろいろあると思います。今はそんなに何回も何回も移籍をしたくないと思っていて、できればこのチームで引退できればいいな、って考えています。
―ここまで長くプレーできた要因は。
個人的に細かな目標を設定しながらやってきたことだと思います。途中で『海外に行く』という目標が途絶えましたけど、じゃあどうしようかと思った時に『もっとうまくなりたい』という方向にシフトできました。今年、グランパスも立ち上げの時に『変化』という言葉があって、そういう意味では、自分も変化をしながらここまでやれたと思うので、今シーズンもできるだけ自分がうまく変化していければいいかなと思います。
―グランパスに移籍してきた19年も大きな変化でしたね。
(元監督の)風間(八宏)さんに出逢ったことは、例えばサッカーへの考え方とか、大きな変化の一つだったと思います。自分としては環境を変えることによって、いい方向に転ぶか、悪い方向に転ぶか分からなかったですけど、それを楽しみながらやっていこうと決断しました。今思えばグランパスに移籍してきて本当に良かったと思っています。
―「止める・蹴る」など細部にこだわった練習でみんなが成長しました。
そのために移籍してきたので一生懸命練習しましたし、自分が一番下手だと思っていたので、最後までボールを蹴っていました。うまくなりたいという気持ちを持ち続けること、どんな年齢でもうまくなれるんだというのを周りにも見せたかったので、そういう意味でもあの時は必死でしたね。
09年にFC東京へ加入し、1年目から目覚ましい活躍を見せた米本。その年のナビスコカップ(現ルヴァンカップ)では、史上最年少となるMVPと、若手に贈られるニューヒーロー賞をダブル受賞した。しかし度重なるけがに泣いて日本代表に定着することはできず、海外移籍の話も直前のけがで流れてしまった。復帰しても足の状態とポジション争いは厳しく、「もっと上達しなければ」と考えて移籍を決めたのがグランパスだった。
―当時の練習で苦しかったのは。
ペナルティーエリアの幅くらいでやる3対2の練習があったんですけど、自分の順番が回ってくるのは嫌だなって思うこともありましたね。それでも自分を奮い立たせて何回もチャレンジしました。本当に『もうボールを受けたくない』って思うこともありましたけど、風間監督にボールの止め方とか相手の足の向きを見ることとか、これまで自分が意識していなかったところを指摘されて新鮮だったし、あの時は28歳くらいでしたけど、あの年齢でもスパッと言ってくれるのはありがたかった。言ってもらったことで自分としても改善できたり、模索できたりしたので、本当に成長できたと思います。
―言われないと寂しいと思うところもありますか。
まあ、健太さん(長谷川監督)も言う時は言ってくれますよ。自分的には今でも若い子の方がうまいと思いながらプレーしていますし、だからこそ自分の強みである泥臭さっていうのを忘れてなくて、そういう泥臭いプレーをうまい選手に見せて、『あの年上の選手があれだけやっているのだから自分もやらないと』っていう思いになってくれればいいなって思います。うまい若手がそれもできれば、もっと上にいけるでしょ。
―やっぱりうまいだけでは成功できないですよね。
そうだと思います。本当にたくさんいた、僕よりもうまい選手がプロになっていないし、僕よりもうまい選手が僕より早く引退している。うまいに越したことはないですけど、『うまい』の他に何か飛び抜けたものを持っていることが大事なのかな、と。
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