楢崎正剛選手 中日新聞コラム「ゴールマウスから」
「楢崎正剛のゴールマウスから」第4回 試合前の「儀式」
試合前のロッカールームは、選手にとって重要な時間だ。それぞれが思い思いのことをして集中力を高める。いわば戦闘態勢に入るための儀式のようなものだ。
小型スピーカーを持ち込んで音楽をかける選手がいれば、闘莉王(J2京都)のように神様にお祈りをしている者もいる。若いころのカズさん(三浦知良、J2横浜FC)は、田原俊彦さんの曲が詰まった「カズセレクション」をイヤホンで聴きながら歌う姿が印象的だった。
僕の場合は、足首と両手の小指にテーピングを巻き、目薬を差してからウオーミングアップに出る。目薬は刺激を入れて気を引き締める意味合いが強いが、テーピングをするのは全てけがをした部分だ。
右手の小指は靱帯(じんたい)がなく、固定しないとプレー中に指が反り返ってしまう。左手小指は試合で骨が飛び出す開放性脱臼をしてから。足首は手術後に医師からテーピングを勧められた。
プロ選手は常にどこかにけがを抱えながら、それを見せないようにプレーしている。僕も自分の百パーセントがどんなだったか思い出せないほどだ。それでもベストの状態に近づける鍛錬を続け、ひとたびピッチに立てば言い訳のきかない世界に生きている。
こうした振る舞いはベテランから学んだ。20代の僕が日本代表にいたころ、中山雅史さんや名波浩さんは試合前に10分以上も熱いシャワーをひざにかけて体を温めていた。2人ともぼろぼろのひどい状態だったのだろう。当時はすぐには理解できなかったが、今ならその意味が分かる。
キャリアを重ねて見えてきた僕なりの理想は、事前に特別なことをしなくても試合に出られるようにすること。常に心と体をフラットに保つ。それが今の自分が目指す境地でもある。(元日本代表、名古屋グランパスGK)
◇4/27より中日新聞で掲載が始まりました楢崎正剛選手によるコラム「ゴールマウスから」、J1最多試合出場(631試合)を誇り、日本代表としても長くゴールを守ってきた楢崎選手が、豊富な視点からサッカーについて語ります。中日新聞にて随時掲載、ぜひお楽しみにください。