田中マルクス闘莉王選手、加入記者会見
8月28日(日)、トヨタスポーツセンターにて田中マルクス闘莉王選手の移籍加入記者会見を行いました。
代表取締役社長 久米一正
名古屋グランパスが現在非常に厳しい状況下にある中、田中マルクス闘莉王選手の加入が決まり、先ほど正式に契約を締結させたことをご報告させていただきます。
リーグ戦残り7試合、クラブ全員が全力で戦うために闘莉王選手の力が必要だと判断し、ブラジルから呼び戻させていただきました。チームを離れた彼を呼び戻すこととなりましたが、それは残りのシーズンに彼の力が必要だからです。闘莉王選手の男気で「よしわかった」と返事をいただきました。新しいジュロヴスキー監督のもと、しっかりと戦うという彼の気持ちを今日ここで、みなさまへご披露させていただきたいと思い、お集まりいただきました。
残りのリーグ戦7試合、メディアの皆さま含め全ての方からグランパスに力をお貸しいただければと存じますので、よろしくお願い申し上げます。
田中マルクス闘莉王選手
─7ヶ月ぶりの名古屋になるかと思います。涙で去ったこの土地に、この時期、この状況で戻られた率直なお気持ちをお聞かせください。
名古屋グランパスには6年間在籍しました。2010年に「ストイコビッチ監督を男にする」と誓った記者会見からはじまり、その年に優勝し翌年も優勝争いを続けました。4年目、5年目、6年目には良い成績を上げられず非常に申し訳ない気持ちでした。
昨年末、ブラジルへ帰国する際には2016年を名古屋グランパスで戦うかどうか、まだ気持ちの中で決まっていませんでした。帰国中にいろいろと考え、2016年の初めに名古屋グランパスとの契約を結びませんでした。自分自身の考えと、グランパスの変わろうという考えの間で、自分は力になれないとその時感じていました。お世話をしてくれたスタッフのみなさんも含め、しっかりと挨拶もできず仲間を残し名古屋を離れたことが心残りでした。
2016シーズンが始まりグランパスの結果を確認し、心配しながらも遠くから愛する名古屋グランパスを見守っていました。苦しんでいる仲間たちに何もできない自分に悲しさを感じていました。今回、久米社長やジュロヴスキー監督から来てくれるかとの電話を頂き、ブラジルでの家族の状況など大変な部分はありましたが、「自分にできることがあればすぐに行く」と伝え名古屋へ戻ってきました。
昨日の試合から出場したかったのですが、それは叶いませんでした。残り7試合、少しでも良いサッカーを見せられるよう、これから努力します。
─クラブを去ることで闘莉王選手自身のプライドも傷つけられたかと思います。そのクラブから再び声がかかり、どのような気持ちだったのでしょうか?
昨年で日本へ来て20年となりました。多くの方々に支えていただき、未だに伝えきれていない感謝の気持ちがあります。そのような気持ちで日本を離れていたため、まだまだ自分にやらなければいけないことが沢山あると思っていました。複雑な気持ちは自分の心に閉じ込め、少しでも力になれればと思い日本へと戻ってきました。
誰もが、今のグランパスの苦しい状況を理解しているとは思いますが、苦しんでいる仲間を見ていられません。自分が何かをしたい、何かができるはずだという気持ちで今はいっぱいです。
─闘莉王選手へ、いつ、どのような形で復帰の依頼があったのでしょうか?
久米社長や強化部のスタッフから、もしかしたらこういう状況になるかもしれないとまず電話がありました。その翌日にジュロヴスキー監督から電話がありました。ちょうど精肉店で買い物をしている時だったのですが「準備をしろ」と言われました。「急過ぎでは?」とこちらから聞き返したのですが、月曜日に電話をもらい、その時点ですでに水曜日の日本への航空券が手配されていました。あまりにも急で、ブラジルの家族にそれを伝えるのも怖かったですが、それでもブラジルにいる家族は元気だけど日本にいる仲間が苦しんでいるんだというような話をして、決断しました。
─出産が控える奥様には、しっかりと説明ができたのでしょうか?
未だに説得はできていません。今朝も叱られました。いまは名古屋をなんとかしなければという気持ちですが、まだブラジルのこともなんともなっていません。考えれば考えるほど恐ろしい状況なのですが、名古屋にいるからにはやるしかないという気持ちです。
─グランパスを離れプロクラブには属さず、その間のトレーニング環境やコンディションを心配する声もあるかと思いますが、ブラジルではどのように過ごされていたのでしょうか?
昨年の11月が最後の公式戦でした。それから9ヶ月、このような状況が起こるという予想は心の隅にありました。自分の力を必要とされれば、その時点で良い準備をしていなければならないと常に考えていました。体のコンディションやメンタルを9ヶ月間キープし続けることに最も苦労しましたが、しっかりとそれを続けました。ブラジルでは牧場で仕事をしていましたが、馬を使う場面でも自分で走ったり、人を使う部分でもまず自分が体を動かしたりと、自分自身との戦いでした。
─昨日のゲームに出場したかったと話にありましたが、もうすぐにでも出られる状況なのでしょうか?
もちろん100%のコンディションではありませんが、試合に出場できる状況ではあります。少しでもチームの力になれると思っています。
─ブラジルから今シーズンのグランパスの結果を見て、どのように感じられていたのでしょうか?
きびしい状況だとは理解していました。名古屋にいる何人かとは連絡を取っていたのですが、切羽詰まった状況で、その人間というものが出てきます。パワーがあれば責任を背負いますが、苦しくなればなるほど、どのような選択をすれば良いのか、さらに苦しい状況に追い込まれます。いろいろな状況を聞き、いま何が起きどのような状況なのか、常に把握しながら過ごしていました。
─昨日、実際にグランパスの試合を観て、ブラジルで感じていたグランパスとの違いはあったのでしょうか?
久しぶりに生でグランパスを観ましたが、ジュロヴスキー監督はよくこの短期間で修正できたなと感じました。もちろんまだまだ課題はありましたが、決して悪い試合ではなかったと思います。勝利まであともう少しという試合でしたが、サッカーの世界では流れが良くない状況ではあのような失点で勝ち点2を逃すことがあります。チームの流れが良ければ間違いなく勝てる試合だった思います。これはサッカーで生きている人にしか理解できないことかもしれませんが、自分としてはその「流れ」を引き戻せるよう努力します。
─リーグ戦、残り7試合で15位のヴァンフォーレ甲府と勝ち点差7。決して簡単な状況ではないですが、闘莉王選手にはこれを取り返すパワーの源となってほしい期待がかかるかと思います。
35年間生きてきて、楽な状況は一度もありませんでした。初めて日本へ来日して以来、いろいろな壁にぶつかり、それを一つ一つ乗り越えることで自分自身成長してきました。一皮二皮むけ、素晴らしい人間になるよう努力してきました。今回も、また新しい壁ができたというくらいにしか考えていませんし、全員で力を合わせ先につなげることで、このような残留争いをするのではなく、2010年のように優勝争いをするグランパスに再び戻すことができると信じています。この壁を乗り越えれば、また優勝争いに加わるグランパスが戻ってきます。今までの経験を活かし、強いグランパスを取り戻せるよう全員で力を合わせ乗り越えたいと思います。
─残り7試合、本当に負けられない試合が続きますね?
次節はアウェイでの新潟戦、残留を争う相手との直接対決となります。それが自分の復帰初戦になるとは、運が良いのか悪いのかわかりませんが、神様が与えてくれた試練だと思いますし、全力で闘います。
─サポーターからも、残留のため闘莉王選手にはスーパーマンのような働きを期待されているのではないでしょうか?
自分はスーパーマンではありません。今回こうやってメディアの方々に集まっていただいたことに感謝していますが、正直な気持ちとして、今の状況で記者会見を開くこと自体どうなのかと先ほどスタッフと話をしていました。
残留の可能性があるのなら、僕は一瞬も諦めません。名古屋グランパスを最後まで闘わせる、それが自分の役割です。全員で力を合わせ、そしてサポーターの皆さんにも全力で支えていただく。そのためのプレーをしたいと思います。
─闘莉王選手が加わることで、今のチームに具体的に何を加えられるとお考えでしょうか?
まず自信を取り戻させます。昨日のロッカールームでも、元気のないチームは勝てないという話をしました。昨日のような試合を引き分けではなく勝利で終わらせる自信、そしてのびのびとサッカーをする気持ちの余裕をもたらしたいと思います。
─グランパスを去って、他のクラブとの契約を結ばずブラジルへ戻った理由をお聞かせください。
グランパスを去ることになるとは、全く予想していませんでした。小倉GM兼監督と昨年最後に話をし、ブラジルへと帰国し、いろいろと考えました。グランパスとは違うユニフォームを着るかといえば、その気持ちにはなりませんでした。色々なクラブからのオファーがありましたが、自分自身の気持ちの整理ができていない状況で他のクラブでは闘えないと感じ、ブラジルの実家へと戻りました。
─グランパスには、旧知の選手も多くいますが、これから選手たちとはどのような話をしたいとお考えでしょうか?
自分を含め昨年でチームを離れた選手がいたこともありますが、昨日の試合のメンバーを見れば、昨年まで試合に出ていたメンバーと入れ替わり今のような状況に陥っています。これまで相手として対戦したことのあるメンバーもいますが、これから新潟戦までの2週間で全員の性格や特徴を把握し、カバーしあえるようにならなければいけません。個々の技術はすぐに把握できますが、性格面での理解には時間がかかります。この選手は厳しく当たればもっとパフォーマンスが上がるかなど、把握する必要があります。昨年からいる選手は理解していますが、外国籍選手を含め新しく加わった選手の性格や特徴を把握することがこれから重要だと思っています。
─背番号は今シーズン空き番号となっていた、そして闘莉王選手自身も愛着のある4番に決まりましたが?
久米社長から電話を頂いた時に、契約を含めた細かな話はしていませんでした。また、ブラジルから試合を見ていても誰がどの番号を付けているか気にならず、実際に名古屋へ戻って4番が空いていることに気がつきました。自分の好きな番号ですし、サポーターも4番といれば闘莉王と把握してくれていると思います。それはやはり、嬉しいですね。
─昨日、今日と試合に出ていないメンバーと実際にトレーニングをしていましたが、ベンチ外のメンバーを見て、チームの雰囲気をどう感じられたのでしょうか?
正直な気持ちとして、ピリっとした感覚が少し足りていないと感じました。もちろん監督の交代など続いて今の状況ですし、今の状況を全員が理解、把握する必要があります。今の状況を招いたのは選手一人一人の責任でもあります。その責任を全員が感じているのか。試合に出ていないメンバーこそ、今の状況は自分の責任だと感じる必要があります。これはグランパスに限った話ではないのですが、チームの成績が悪いとき、試合に出られない選手は「自分が出ていないから」という思いに走りがちですが、だからこそ責任を感じ、もっとピリっとする必要があります。火曜日からは、昨日の試合に出場した選手たちとも一緒にトレーニングを行えますし、そこでチームに必要なものを付け加えなければいけません。全員がプロサッカー選手ですし、生温い気持ちでは闘えません。
─名古屋グランパスの選手として戦うなら、Jリーガーとして日本代表という気持ちもまた芽生えるのではないでしょうか?
サッカーを始めてからずっと、明日のことは考えられない人間です。日本代表とは最も調子の良い選手が選ばれなければいけません。調子が良ければ全員に代表のチャンスはあります。先日のリオ五輪では仕事として代表を観させてもらいましたが、まだまだ追求し、勝負強いチームにならなければいけません。それは自分自身にも言えることです。良いパフォーマンスを見せれば代表は遠い目標ではありませんが、今はグランパスで何をするかしか頭にはありません。