JリーグヤマザキナビスコカップD組第4節
 ムッとする暑さの中、午後1時、最後の仕上げのウォーミングアップを行うため選手達がピッチへと現れると、スタンドから大きな声援が沸き起こる。そして、最後にゆっくりとした足取りで登場したマルケスには、暖かい拍手が一際大きな声援に混じって送られる。
 サポーターからの声援に笑顔で応えたマルケスだったが、ピッチに足を踏み入れた瞬間には表情がきりっと引き締まり、いつもの戦士の表情へと変貌してゆく。角田を相方にボールを蹴る表情もいつになく厳しい。これまで在籍した名古屋のサポーターの前で、最高のパフォーマンスを見せるべく、テンションを高めている様子が伝わる。
 そのマルケスの雰囲気に呼応するように、周りの選手達もいつもに比べ、気合いが入っていることが分かる。良かった頃のチーム状態を取り戻すためにも、そして、マルケスに最高の形で旅立って貰うためにも、チームの勝利が一番良いことなのは、誰もが分かっているようだ。
 ピッチでは、選手達が四隅にマーカーをおいたエリア内でボール回しを行いながら、コンディションを整えてゆく。その後は、各選手が思い思いにボールを捌きながら、ピッチコンディションを確認してゆく。その中央で、マルケスは細かいステップを踏みながら、シュートを枠にけり込んでいる。彼にとって、日本での最後となる、この試合を隅々までしっかりと胸に刻み込むように、ゆっくと、そして念入りに。
〜前半15分
試合開始直前のメンバー紹介での興奮がさめやらぬまま、マルケス最後の勇姿を一目見ようと集まったサポーターの前に両チームイレブンがゆっくりとした足取りで入場してくると、それまで以上に大きな声援と拍手が沸き起こる。
前半は右にエンドを取った鹿島に対し、左から右へと攻め上がる名古屋のキックオフで試合開始。主力の殆どを代表戦で欠く今日の鹿島は、相手としてはやりやすいだろう。
 
 
GKは川島、DFは右から井川・古賀・増川・中谷の4バック。MFは右に中村、ボランチは若い須藤・クライトンの2人、左寄りに山口、そしてFWは平林とマルケスの2人。
1分、自陣の古賀からの縦の早いボールを平林がワンタッチで外にはたこうとしたが、これはDFにカットされてしまう。
2分、右からの中村のクロスが左に流れると、これを拾った山口が中へと右足で放り込んでゆく。ニアで平林が頭を出すが、触れることなく相手GKの下へ。
 
 
 
4分、左からのCKのチャンス。中村のニアのボールをマルケスが華麗に頭で合わせて、相手ゴールネットを揺らし、早速先制点を決め、自らの最後の日に花を添える。
6分、中央でボールを受けた平林が落としたところをマルケスが右のスペースへと出してゆくと、これにしっかりと反応した中村がボールを追いかけ、ライン際から中へと折り返していったが、誰もこれには競ることが出来なかった。
7分、左の深い位置に出たボールを拾った鹿島・深井が中へと放り込んでくると、中島が頭で合わせるが、体勢が崩れ、ボールはクロスバーの上へ。
9分、鹿島・中島がDFの間を抜けるボールに抜けてこようとしたが、井川がしっかりと着いていって体を入れ、プレイさせなかった。
【得点】
4分 マルケス(名古屋)
 
10分、相手DFの裏へのボールに素早く抜け出した中村がDFに倒され、笛が大きくなるが、これはファウルではなく、残念ながらオフサイドに。
12分、右にこぼれたボールを鹿島・増田が中へと入れて来ようとするが、増川・古賀でしっかりとこれを阻止してゆく。
14分、自陣で鹿島・深井のボールを奪った古賀が縦に出すと、これを平林が受けて前を向こうとするが、鹿島・石川にコースを阻まれ、ファウルを取られてしまう。
 
〜前半30分
マルケスの見事なヘディングシュートで幕を開けた今日の鹿島戦。このゴールのお陰で、選手達の出足も良く、ここまでは試合の主導権をしっかりと握って、良い形で試合が流れている。
17分、自陣右中程の位置での鹿島のFK。石川が左足でゴール前へ入れてくると、大岩がヘディングシュートを枠に飛ばすが、これまでの悔しさを返上するかのような反応を川島が見せて、シュートを外へと弾き出してゆく。
19分、自陣ゴール前への長いボールに中島が奪いに来るが、増川が体をしっかりと着け、シュートを枠内に飛ばさせることはなかった。
 
 
20分、相手陣内中央でこぼれたボールを拾ったマルケスが右から裏へ抜けようとした平林に狙って蹴ってゆくが、DFに読まれて弾かれてしまう。
22分、右にポジションを変わっていた中谷がドリブルで縦に突破してゆくと、寄せてきたDFをかわして中と入れてゆこうとするが、慣れない方向にボールがコントロールできず、寄せた選手にボールを奪われる。
23分、右からドリブルで寄せてきた鹿島・増田がエリアの外からシュートを狙って蹴ってくるが、これは相手選手に当たり、外へとこぼれる。
 
 
24分、右サイド相手陣内深くでDFをかわした井川が早いクロスを中へ蹴り入れると、中央に詰めていた山口がヘディングシュートに。しかし、ボールは僅かに右のポストの外へ惜しくも外れてしまう。
26分、中央から右のスペースへとクライトンが出したボールに井川が上がってゆこうとするが、その目の前で副審の旗が上がり、オフサイドを取られてしまう。
28分、相手陣内中程中央で分厚い攻撃を仕掛けると、クライトン、マルケス、中村そしてクライトンとパスが面白いように通る。最後、DFの間をクライトンが再び抜けだそうとするが、これは相手の厳しい当たりに倒され、このチャンスを潰されてしまう。
 
〜前半終了
31分、自陣左中程の位置で鹿島・深井に対するファウルでFKを与えてしまう。これを新井場が右足でゴール前に低いボールを入れてくると、増田がこれに飛び込んでくるが、コースが当たって大きく変わり、左に大きく流れてゆく。
33分、中央をDFの間のボールに抜け出した鹿島・興呂が川島と1対1になるが、後ろから古賀がボールへのスライディングを見せて、このピンチを救う。
34分、鹿島の右からのCK。石川のゴール前へのゴールは川島がパンチングで弾き出してゆく。
35分、右からのゴール前への裏へのボールに鹿島・中島が左足で合わせてゴールネットを揺らすが、これはオフサイド。
 
 
36分、左サイドで中谷が縦のスペースへとボールを大きく出すと、マルケスが抜け出そうとしたが、鹿島のDFに阻まれ受けることが出来なかった。
37分、中央で平林が落としたボールを中村が左のスペースへと出すと、これにマルケスが抜け出してゆくが、僅かにタイミングが早くオフサイドに。
39分、右サイドでDFと競り合いながらも平林が粘りを見せ中村へと繋いだところで倒され、FKを得る。距離は遠いものの時間帯を考えれば良いチャンスだ。これを中村が、ゴール前へカーブをかけて蹴ってゆくと、増川、古賀が待ちかまえていたが、その前で相手DFがカットしてしまう。
 
 
41分、中央深くクライトンがボールをキープすると、中へ流れるマルケスにつられてDFが動いて出来た右のスペースに走る井川にパスが通る。これを早いボールで中へと折り返していったが、コースに入ったDFが頭で弾き返してしまった。
43分、自陣左入った位置での鹿島のFK。石川がゴール前へと放り込んでくるが、川島が飛び込んでくる相手選手を怖がることなく前へ出て、パンチングで弾き返してゆく。
44分、左で平林の出した縦パスを持ち上がった山口が中へと折り返すと、中央で待ちかまえたマルケスが左足でダイレクトでシュートを狙うが、バウンドが上手く合わず、前へ飛ばすことが出来なかった。
ロスタイム1、中盤でボールが落ち着かず、行ったり来たりを繰り返すが、危なげなく時間が経ってゆく。
 
 
ロスタイム2、右サイドに出たボールを拾った鹿島・興呂がドリブルで増川をかわしてゆこうとするが、古賀とのコンビネーションでチャンスを作らせなかった。
そして、ここで前半が終了。名古屋はマルケスの鮮やかなゴールで先制した得点をしっかりと守って、前半を1−0で折り返すことが出来た。しかし、鹿島の若い選手の出足に、途中からは押し込まれ、ズルズルと下がってしまう場面も時折見られ、相変わらず自信のなさが見え隠れする。後半は、その点をしっかりと修正し、逆に追加点を奪いにゆきたいところだ。
 
〜後半15分
試合前の練習の時とは逆に、先頭でピッチへと戻ってきたマルケス。残り45分、心残りの無い内容・プレイを見せてくれるはずだ。
後半は左にエンドを変えた鹿島のキックオフで試合再開。
1分、自陣左の深い位置で鹿島のFK。立ち上がりは集中力が切れやすいだけに油断できない。この場面で新井場がマイナスに蹴ったボールを深井が中央で頭で合わせてきたが、ボールは外へと流れてゆく。
 
 
3分、平林の左スペースへのボールを受けたマルケスがそのまま切り換えして中へと入ってゆくと、右足でシュートに。しかし、これはDFに挟まれコースが無く、相手GKの正面に。
5分、左サイドでマルケスが相手DFの足の間を抜くヒールパスを決めると、これをクライトンが貰って縦に上がるが、寄せてきた鹿島・アリへのファウルを取られてしまう。
6分、右からドリブルで上がっていった平林がそのまま持ち込んでゆくと、右足で積極的にシュートを狙うが、惜しくもポストの右。
7分、右に出たボールをゴール前へと折り返してくるが、詰めていた鹿島・中島がシュートをミスし、救われる。
 
 
11分、左に持ち込んできた鹿島・興呂のマイナスのボールを増田がダイレクトで合わせてくるが、このシュートは右に大きく流れてゆく。
12分、相手陣内中程中央寄りの位置でのFKを得る。中村がこすり上げるようにして、直接狙って蹴っていったが、ボールは相手GKの正面。
【交代:53分・鹿】
石川阿部
〜後半30分
15分、左のスペースへ出たボールをマルケスが持ち込んでゆこうとするが、鹿島・岩政の厳しい寄せにボールを奪われてしまう。
16分、自陣右でボールを持った鹿島・深井が中へと流れてきながら左足でシュートを打ってくるが、これは川島が正面で止める。
17分、中谷からの相手DFの間をきれいに抜けたスルーパスに反応したマルケスが左足でシュートを狙っていったが、これは角度がないところだったため、GKに阻まれてしまう。
19分、左から中央へ入ったボールを中村がDFの頭越しに放り込むと、平林が飛び出すが、ボールに触れる前に体を入れ替えたDFに蹴り出されてしまう。
 
 
20分、ここへ来て午後の日差しが強まりを見せ、選手達の額は汗で光り、体力を消耗させてゆく。
21分、相手陣内左でこぼれたボールを拾った中村がゴール前へ蹴り入れてゆくと、前に残っていた古賀が上手く抜け出し、胸トラップでボールを前に落としてシュートにゆこうとしたが、寄せてきたDFに阻止され、打つことが出来なかった。
24分、相手陣内深くで回るボールに、平林、中村が執拗に追い回すと、スタンドのサポータから大きな声援が起こる。時間的にも今が一番苦しい時だと思うが、ここは気力で乗り切りたい。
25分、自陣右深くの位置で鹿島にFKを与えてしまう。ここは集中してこのピンチを乗り切りたい。鹿島・阿部の左足の蹴ったボールは、誰に触れることなく反対に流れゴールラインを割る。
【交代:65分・鹿】
深井田代
 
27分、DFの裏へと出たボールに飛び出したマルケスがGKと1対1になると、右足でシュートを放っていったが、前に詰めたGKに当たって弾かれてしまった。
28分、左からのCKのチャンス。中村のゴール前へのボールはカーブが掛かり、GKの下へ吸い寄せられてしまう。
29分、自陣からの縦のボールに鹿島・田代が抜け出してこようとしたが、ここは井川がしっかりとついて行き、プレイさせなかった。
【交代:73分・鹿】
増田内田
〜試合終了
いよいよ残り15分でマルケスのプレイとも別れなければいけない。最後までしっかりと目に焼き付けておきたい。
32分、自陣右入った位置での鹿島のFK。短く繋いだボールを右のスペースへ鹿島・青木が大キック蹴って興呂を使うが、ボールはゴールラインの外へ。
33分、左に出たボールをワンタッチで新井場が放り込んできたが、これは精度が無く、鹿島の選手は誰も触れない。
 
36分、右のスペースへクライトンが大きく出したボールに山口が拾いにゆくが、鹿島のDFに阻まれ、ボールを見失ってしまう。
37分、自陣の井川からの裏のボールに杉本がすかさず抜け出すが、これはオフサイドに。
38分、鹿島・新井場がスペースへとボールを出してくるが、ここは中谷がしっかりと体を入れてゆき、前の選手にはボールに触れさせなかった。
【交代:79分・名】
平林杉本
 
39分、今度はタイミング良く左で裏へ抜け出した杉本にボールが通ると、ライン際からマイナスにグラウンダーのパスを中へと入れてゆくと、マルケスが詰めていったが、僅かに間に合わず、目の前をボールが抜けていってしまう。
41分、相手ペナルティエリアの外でボールを持った杉本が、今度は切り換えして右足でシュートに行ったが、これはコースに足を出したDFに阻まれてしまった。
42分、自陣で鹿島・アリからボールを奪ったクライトンが縦に大きく蹴り出すと、杉本が飛び出すが、これもオフサイドに。
43分、左からあの鹿島のCKは簡単にクリアしてゆく。
44分、左でボールを持ったマルケスが右足でゴール右にカーブをかけたシュートを狙っていったが、GKの長くのばした手に阻まれ、中へと弾かれてしまう。
 
 
ロスタイム1、鹿島・田代が裏へのボールへ抜けてくるが、古賀が体を入れて行き、プレイを阻止してゆく。
ロスタイム2、左でボールをフリーで受けたマルケスだったが、時間を考えて攻め急ぐことなく、落ち着いて味方にボールを戻してゆく。
ロスタイム3、何とか勝利を手に入れようと集中する名古屋の選手達の頑張りに応えるように、主審の長い笛が瑞穂のピッチに鳴り渡ると、スタンド中から大きな拍手が沸き起こり、チームの勝利が決定する。最後は蒸し暑さもあり、体力を消耗して、苦しい時間帯が続いた試合内容だったが、マルケスの最後を勝利で飾りたいという、選手全員の気持ちが、プレイ中の気迫に表れた、“熱い”内容の試合だったといえる。最後まで熱い声援ありがとうございました。そして、90分間、最後まで手を抜くことなく、華麗なプレイでサポーターの声援に応えてくれたマルケスには感謝したい。ありがとう、マルケス!
 
 

試合終了後、5月末をもってブラジルへ移籍するマルケス選手のセレモニーが行われました。
グランパスエイトから花束が贈られ、慣れ親しんだ瑞穂のピッチ1周したマルケス選手。
ゴール裏ではサポーターと共にマルケス選手のテーマソングを自らも歌い、別れを告げました。
Jリーグ・ナンバーワンと言われたテクニックと驚きに満ちた数々のゴールをありがとう、マルケス!