楢崎正剛選手 中日新聞コラム「ゴールマウスから」

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「楢崎正剛のゴールマウスから」第5回「GKを育てるには」

 数年前の話だが、「GKの父」と呼べるような人に指導を受けたことがある。イタリア人GKコーチのフルゴーニさん。同国代表の名手ブッフォンを育てたことで知られている。オフを利用してイタリアでの練習に参加した。

 当時フリーだったフルゴーニさんはパルマの街のグラウンドで私塾のようなものを開き、彼を慕うイタリア下部リーグのGKを教えていた。そこに混じって練習したのだが、彼はひと目見ただけで僕の特長をつかんでいた。

 「どれだけキャリアを積み重ねようと、練習から逃げないように」とも助言をいただいた。街の中に芝のグラウンドが当たり前にあり、高度な指導を受けられる場もある。サッカー文化の豊かさをあれほど痛感したことはない。

 それに比べると日本はまだ発展途上だ。僕が子どものころはGKを育てる土壌はなく、みんながやり方を模索した時代だった。

 今、GK育成に求められることを自分なりに考えると、ジュニア年代ではプレーを楽しんで自分の感覚をつかみ、体ができあがるにつれてキャッチングやポジショニング、足の運びなどの基本を徹底的に学ぶ。ユース年代以降は試合の流れを読み、ゲームをつくる経験を積ませることだと思う。

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 昨年末に受講したGKのC級コーチ養成講習は、実戦的な技術より型通りのものを教える傾向にあった。日本サッカー協会もそのあたりの課題を把握しているから、改善を重ねて中身の伴った制度にしてくれると期待している。

 同時に教えることの難しさも感じた。GKにしか分からない感覚を言葉で伝えるのは容易ではない。それでも、何人もの師から学び、経験してきたことを日本サッカーに還元するのが僕の役割だと思っている。(元日本代表、名古屋グランパスGK)

◇4/27より中日新聞で掲載が始まりました楢崎正剛選手によるコラム「ゴールマウスから」、J1最多試合出場(631試合)を誇り、日本代表としても長くゴールを守ってきた楢崎選手が、豊富な視点からサッカーについて語ります。中日新聞にて随時掲載、ぜひお楽しみにください。